プロトン濃度の勾配という高エネルギー状態こそが酸化的リン酸化におけるATP合成の鍵であるという化学浸透説を唱えたイギリスのミッチェルがノーベル賞を受賞したのは呼吸という基本的生命の営みを解明した功績によるものだそうだ。(光合成とはなにか「園池公毅」96ページ)電子の伝達自体がATPを生み出すわけではなく、電子伝達によって生じたエネルギーは、いったん膜を隔てたプロトンの濃度の落差という「状態」に変化し、ATP合成酵素はこの状態が持つエネルギーを使ってATPを合成する。これらはプロトン濃度勾配があればATPを合成するが、逆にATPがあってプロトン濃度勾配がない場合、ATPを分解してプロトンを輸送するという離れ業を行なう。ATP合成酵素はATPのエネルギーを利用するプロトンポンプとしても働くのだ。電子伝達系におけるたんぱく質の構造の微妙なところは、その電子伝達する位置が互いにすぐ近傍にあり、物理的にそういった反応が必然的に起こるという状況に置かれているところにある。
これらのことを解明した学者の根気には頭の下がる思いがする。